小説を読んでいるとき、「どうしてこの場面で、急に雨の話になるんだろう?」「夕焼けの描写がすごく長いな…」なんて、不思議に思ったことはないかしら。物語の筋とは関係ない風景の話が続くと、少し退屈に感じてしまう子もいるかもしれませんね。
でもね、それこそが、筆者が君だけに送ってくれている、登場人物の「心の声」を読み解くための、最大のヒントなんです。
映画やドラマで、悲しい場面では静かな雨の音が、楽しい場面では明るい音楽が流れるでしょう? 小説における天気や風景の描写は、まさにその「BGM」と同じ役割。登場人物の言葉にならない気持ちを、代わりに景色が語ってくれているの。
「言葉はね、君の心を映す鏡なんだよ」
そして、小説における「情景描写」は、登場人物の心を映し出す、もう一つの特別な鏡なのです。今日は、その鏡を読み解く方法を、一緒に学んでいきましょう。
小説文の読解は「情景描写」に注目すると心情がわかる
心を映す鏡、「情景描写」の魔法
登場人物の心情を説明する方法は、二つあります。 一つは、「太郎はとても悲しかった。」のように、気持ちを直接言葉で説明する方法。 もう一つは、言葉にせず、行動や風景で「匂わせる」方法です。
例えば、
太郎が窓の外を見ると、冷たい雨がしとしとと降り始めていた。空はどんよりと暗く、まるで世界からすべての色が消えてしまったかのようだった。
と書かれていたら、どうでしょう。「悲しい」という言葉は一言も使われていないのに、太郎の沈んだ心、絶望感がひしひしと伝わってきませんか?
このように、登場人物の心情とリンクさせて風景を描写する手法を「情景描写」と言います。これに気づけるようになると、小説の読解は一気に深まり、そして楽しくなります。
心情を読み解く!「情景描写」の基本パターン
景色と心情の結びつきには、ある程度の基本パターンが存在します。このパターンを知っているだけで、読解のスピードと正確さがぐっと上がりますよ。
①【天気】は、キャラクターの「心の天気」
- 晴れ ☀️
- キーワード: 希望、喜び、成功、心の晴れやかさ
- (例)試験に合格した帰り道、空はどこまでも青く澄み渡っていた。
- 雨 🌧️
- キーワード: 悲しみ、不安、涙、苦悩
- (例)親友と喧嘩した日の夜、窓を叩く雨音が一晩中やまなかった。
- 曇り ☁️
- キーワード: 不安、憂鬱、心の迷い、不穏な空気
- (例)進路を決められない彼の心のように、空は白とも灰色ともつかない雲に覆われていた。
- 風 💨
- キーワード: 変化の予感、心の乱れ、これから何かが起こる前触れ
- (例)彼が決意を固めた瞬間、窓がガタガタと音を立てるほどの強い風が吹き抜けた。
②【時間】は、キャラクターの「人生のステージ」
- 朝・夜明け 🌅
- キーワード: 始まり、希望、再生、新たな決意
- (例)故郷を旅立つ日の朝、東の空がゆっくりと白んでいくのを彼はじっと見ていた。
- 夕方・夕焼け 🌇
- キーワード: 終わり、哀愁、過去の思い出(回想)、懐かしさ
- (例)祖母との思い出を語るとき、彼の横顔は美しい夕日に照らされていた。
- 夜・暗闇 🌃
- キーワード: 不安、孤独、恐怖、絶望、秘密
- (例)たった一人で夜道を歩いていると、言いようのない不安が彼を襲った。
③【季節】は、キャラクターの「心の温度」
- 春 🌸:出会い、希望、新しい生活の始まり
- 夏 🌻:生命力、情熱、成長、盛り上がり
- 秋 🍂:寂しさ、哀愁、ものの終わり、物思いにふける
- 冬 ❄️:試練、厳しさ、孤独、忍耐、春を待つ気持ち
橘先生の攻略ポイント
文章を読んでいる途中で、天気や風景の描写が出てきたら、ただ読み流すのではなく、一度立ち止まって、こう自問自答してみてください。
「この景色、今の登場人物の気持ちと、どこか似ていないかな?」
このひと手間が、心情を問う問題の正解率を劇的に変えます。特に、それまで晴れていたのに急に天気が崩れたり、暗くなったりする場面は、「これから良くないことが起こる」「登場人物の気持ちが落ち込む」という筆者からの超重要なサイン。絶対に見逃さないようにしましょう。
橘先生からのメッセージ
風景は、決してただの背景ではありません。時には登場人物以上に、その物語の「心」を雄弁に語ってくれる、もう一人の主人公なのです。
情景描写に注目できるようになると、登場人物の心にそっと寄り添い、その喜びや悲しみを、自分のことのように感じられるようになります。それは、国語の点数よりもずっと大切な、君の心を豊かにしてくれる、一生の宝物になるはずだよ。
これから小説を読むときは、ぜひ「心のBGM」である景色にも、耳を澄ませてみてくださいね。